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【インドをよく知る】


2) 歴史


2.アーリヤ人の到来


 今回はインドの歴史に戻って、インダス文明に引き続いて、アーリヤ人の侵入について記します。


 紀元前2600年ごろから栄えていたインダス文明も、紀元前1800年ごろには滅亡し、その後紀元前1500年ごろになってアーリヤ人が西北の現アフガニスタンの方向から侵入してきました。

 このアーリヤ人はもともと、カスピ海と黒海にはさまれたコーカサス山脈の北方地帯の現ロシアのチェチェンあたりで牧畜を営んでいた、という説が有力です。

 アーリヤ民族は、紀元前1700年ごろから人口の増加や干ばつなどの事情に促されて、原住地の草原を出て他の地方へ移住を開始しました。一部の部族は西方へ向かいヨーロッパに定着しました。しかし多くは南下し、一部はその後西方へ向かいトルコでヒッタイト族の大帝国を築き、その他は東方へ向かいカスピ海南東の西トルキスタンのあたりに数世紀定住して共同生活を送っていました。その後再び移住を開始し、一部はイランに入り、その他はアフガニスタンを通ってインドに入ってきました。そのため、古代ペルシャと古代インドには宗教的な共通要素が多く見られます。以上のことはヨーロッパ諸民族と、イラン、インド・アーリヤ人のあいだに密接な言語上の血縁関係があることが発見されたことからも裏付けられ、これらの諸言語はインド−ヨーロッパ語族と呼ばれています。またこれら諸民族のあいだには人種的にも血縁関係があり、西北インドの人々は、皮膚の色、骨格が西洋人といちじるしく類似しています。


 アーリヤ人は肉体的にも精神的にもインドの先住民族より強靭であり、金属鋳造の技術を持ち、武器も戦術面でも圧倒的に優れていました。それで先住民は人口数でははるかに多かったけれども、アーリヤ人の支配下に隷属し、インド社会最下の隷民階級となってしまいました。彼らのことは、征服せられた先住民、すなわち隷民を意味するダーサと呼ばれ、後にカースト最下層であるシュードラとなりました。当時アーリヤ人から成る一般自由民の階級と、先住民である隷民階級とは完全に区別されていました。この階級のことを「色」という意味のヴァルナといい、征服者たるアーリヤ民族は皮膚の色が白く、被征服者である先住民族は色が黒いので、この皮膚の色の区別がそのまま階級の区別となりました。ただこの時代に編さんされた「リグ・ヴェーダ」を見ると、この当時まだカーストのようなものは存在してなかったようです。


 アーリヤ人社会は、家父長的な家を最小単位とした部族社会でした。アーリヤ人の家族は夫系制であり、家長が大きな権限を持っていました。「リグ・ヴェーダ」にみられる神々は男神が圧倒的で女神は少なく、妃神は夫神に従属していました。つまり当時女性の地位は低いものでした。

 アーリヤ人の生活は牧畜を主とし、かたわらで農業を行っていました。牧畜では牛と馬、農業では大麦が主でした。この時代から牛は経済的な理由で大事にされていましたが、後代のヒンドゥー教に見られる牛の神聖視はこの時代まだなかったようです。


 インド西北部のパンジャーブ地方を占拠し、成熟の度合いを深めたアーリヤ人社会は、紀元前1000年ごろから、再びさらに東方のガンジス川流域の肥沃な平原部へと移動を開始しました。こうして東部ビハール地方も紀元前600年までに支配下に置き、開発していきました。ガンジス川流域が開拓されると、大麦、小麦のほか、米や豆など多種の農作物が生産され、牧畜よりも農業を主として行うようになりました。そしてインドの特色ある村落社会の原型は、この時期に形作らていきました。


 この時代の国家形式は全体としてひとつの統一的国家はなく、部族毎に世襲の王の下に小国家を形成していたものでした。つまり当時のアーリヤ人社会は国家的な結合でなく、同じ宗教であるという自覚において結び付けられていたものでした。アーリヤ人のこのような形態が、その後のインド史を永らく規定していくものとなりました。



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