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1.インド政治の基本 今回はインドの政治についてです。インドの政治の最大の特徴は、独立以来ほぼ一貫して議会制民主主義を貫いてきたことにあります。この点はカントリーリスクという点で、また中国との比較という点で、インドが優位なところです。対中、対印投資を比較して、この点でインドを選んだ企業も日本を含め多くあります。 インドは多民族、多宗教、多言語を抱える多様性の国であり、政治的には対内的に国民の統合の維持、対外的に独立の堅持が基本で、そのために開発による経済的発展とそれを広く適正に分配することを必要としてきました。それで独立以来のインドにおける政治・国家運営は、1)独立の堅持、2)国内全土の統合、3)開発による経済発展の3点を基本においてきました。 このうち国内全土の統合という点では、インドは憲法にも定めた政教分離主義をとっています。これは広い国土をまとめるため、他の宗教に配慮し、総人口の8割を占めるヒンドゥー教を国家の理念とはしないというものです。 しかし80年代末からはヒンドゥー・ナショナリズムを掲げるBJPが勢力を伸ばし、インド国内のイスラム教徒を刺激したことで、ムスリム多住地域であるジャム・カシミール州の独立運動をおこす契機ともなっています。 また開発による経済の発展という点では、独立後のインドの政治を主導してきた会議派をはじめとする多くの政党が、経済的不平等の是正を主とした「社会主義」を公約に掲げたことをおさえなくてはいけません。これは過小な経済のパイを適正に配分しないと、個人間や地域間の経済格差の拡大が、国民の中の諸集団の不満を増大させ、これが国家の統一した存立を危うくすることになりかねないからです。そのために開発の促進による経済振興は政治課題としても最優先課題でした。 このような社会主義的政策の実質は、閉鎖的な経済運営を行なうことで、インド国内産業を保護・育成することにありました。つまり経済における社会主義政策とは、欧米資本によらないインド国内優先の閉鎖経済のことであり、もうひとつの基本課題である独立の堅持と密接に関連しあうものでした。 しかし規制的、閉鎖的な経済運営は、1965年の第二次印パ戦争や干ばつの影響もあり、経済の発展を阻害することとなりました。社会主義的な計画経済政策の基で、経済政策を立案する政府の重要性が増すこととなり、これが他の社会主義国と同様、産業の国有化や政府による許認可による規制強化がなされることにつながりました。さらに、官僚の権限増大は政官財の癒着をもたらし、官僚の非効率さが産業の発展や自由化を阻害する要因となっていました。この官僚の非効率さは、経済自由化され、経済発展を実現した今日でも、自由化に対するブレーキとしてまだまだ機能しています。これはインドを語る場合、進出した企業が許認可で官僚との折衝に苦労したり、国営企業のサービスの悪さがよく指摘されるところとなっています。 外交面では、インドはアメリカのベトナム戦争批判を展開したことによりアメリカの対印経済援助が停止されることになり、それがソ連への傾斜をさらに強めることとなりました。それが結果的に、経済の停滞を進めることにもなりました。インドは反米・親ソの外交路線を、その後80年代まで続けることとなりました。 インド経済の停滞は1991年の債務不履行寸前の状態にまで至ることとなり、これがラオ政権による「新経済政策」、すなわちドラスティックな経済自由化政策へとつながることとなりました。この頃中国は改革開放政策により目覚しい経済成長が始まっており、またソ連・東欧では共産主義政権が崩壊した時期で、インドも社会主義を続ける状況でもなくなっていました。 インドの国家的課題である、独立の堅持、国民統合の達成、および開発の促進は、この経済自由化により新たな局面をむかえることとなりました。この経済自由化により発展が進んだきたことで、インドを独立以来苦悩してきた国内の安定・統合も進んできました。グローバル化の恩恵を最も受けて発展してきたインドにとって、今後この自由化路線が進んでいくことはあっても、後退することはもはやありえないでしょう。 |
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