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【インドをよく知る】


6) 政治


7.90年代以前のインドの外交

 今回はインドの外交で、まず90年代以前の状況についてまとめます。


 インドの国家運営の基本は、国の自立・安全を最優先に国民をまとめるということです。それに沿って基本外交政策は、1947年の独立以来ずっと、独立の堅持(域外勢力の排除)に置いています。インドの外交は、この実現を目指すことが基本となっています。


 これは、反植民地主義、反帝国主義を掲げた独立運動の成功により主権を獲得したインドにとって、その主権を擁護するため、他国からの干渉や介入を排除しようとするのは当然のことでした。それで独立の維持が最大の外交課題となったのでした。ここからインド外交の特色である、域外勢力の排除という基本指向が生まれたのです。したがってこれを実現させるため、軍事同盟への不参加、自主的な外交政策という非同盟政策が50-60年代の冷戦期にあって、この指向に合致するものでした。


 そしてその後70年代に入るとインドは、さらに南アジア全域を自国圏と想定し、同地域からの域外勢力の排除を指向するようになりました。

 排除すべき域外勢力は、アメリカであり、そして中国でした。インドは米中の影響力をそぐために、さまざまな外交政策を展開するようになりました。そしてその基本は、もうひとつの大国であるソ連を最大限利用することでした。インドは米中ソの力を均衡させ、その状態を維持させることにより、南アジアにおける盟主としての地位を確立しようとしたのでした。

 1971年に入って、東パキスタンではムジブル・ラーマンが率いる「アワミ連盟」が広範な自治の要求を掲げたのに対しパキスタン政府は武力弾圧で報い、闘争は1971年12月に内乱へと発展しました。一方この事態に対し、この少し前の同じく1971年に成立した「印ソ平和友好協力条約」によりソ連が、インドの軍事的サポート、政治的な代弁者として登場してくることとなりました。インドをこの締結に踏み切らせたのは、同じく1971年に米国のキッシンジャー特別補佐官がパキスタンから北京に秘密裏に乗り込んだことで、米・中・パの枢軸がしっかりと確立しつつあるように見えてきたことでした。そして東パキスタンの内乱に端を発する印パの全面衝突がもはや不可避であるとの認識が、せまりくるパキスタンとの戦争に際して米、中、とりわけ中国の介入を阻止するために、ソ連とのこの条約が必要と判断したことに基づくものでした。

 「印ソ平和友好協力条約」は、(1)経済的、科学的、文化的協力の促進、(2)他方に対する攻撃、あるいは敵対的な条約への加盟を差し控えること、(3)第三国による攻撃ないし威嚇が生じた際には直ちに相互協議に入ることが骨子でした。要は第三次印パ戦争に際し、(1)米第7艦隊を東パキスタンに介入させないこと、(2)もしも中国がヒマラヤを越えてインドに攻撃を仕掛ければけん制行動に入ることを、モスクワがニューデリーに約束したものでした。

 インドはパキスタンに対抗する観点から東パキスタン側につき、そこでの戦闘(第三次印パ戦争、バングラデシュ独立戦争)に勝利を収めました。そして1971年は、インドとソ連の外交・軍事政策のめざましい勝利の年となりました。インドは宿敵パキスタンの解体に成功し、南アジアにおける大国の道を歩み始めることとなり、域内の大国としての地位を固めていきました。


 そして経済面において域外勢力の排除という指向は、アメリカや西側諸国に対する閉鎖的・排他的な経済開発政策となって現れることとなりました。すなわち、経済ナショナリズムです。


 インドは非同盟の旗手として、国際社会における積極的な活動を通じて冷戦構造の解消に努めてきましたが、その外交政策は冷戦構造という国際的な状況があってこそ遂行可能なものでした。80年代末に始まったソ連の崩壊、および冷戦構造の消滅に加え、約半世紀にわたって採用されてきた経済開発政策が期待通りの成果を上げず、新しい経済体制においては作動しないことが明らかとなるに及んで、インドは外交政策の方向を転換しなければならなくなりました。

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