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【インドをよく知る】


5) 宗教


2.ヴェーダ聖典とバラモン教


 第8回目で、インダス文明期にヒンドゥーの原型がすでにみられたことを示しました。今回はその土地にアーリヤ人が侵入し、ヴェーダを聖典とするバラモン教という土台ができた過程を見ていきたいと思います。


 紀元前1500年頃、それまでインド西北にある西トルキスタンあたりの平原部で牧畜を営んでいたアーリヤ人が波状的に移動を開始し、一部はイランへ、他の一部はアフガニスタンを通って、西インドのパンジャーブ地方に侵入していきました。このときインドに入ってきたアーリヤ人は、その文化や生活様式も一緒にインドに持ち込んできたのでした。


 当時のアーリヤ人は、供物や犠牲獣を聖火に投じ、天神にささげて福を得るということを行っていました。これは同じくアーリヤ人が侵入したイランのゾロアスター教とも共通する聖火信仰であり、日本の真言密教の護摩(ごま)祈祷も、アーリヤ人の言語であるサンスクリット語の「供儀(ホーマ)」に由来したもので、ヴェーダの祭儀ははるか日本にも伝わっています。


 アーリヤ人は先住民を隷民として支配下に取り込みながら、紀元前1000年頃からは東方のガンジス川流域の肥沃な平原部へと移動していきました。そして農業生産力が向上していくことで社会は安定し、王権が強大化し、階級が形成されていきました。この過程で、祭祀者階級であるバラモンの呪術を社会生活のベースとしていったことからバラモンの重要性が増していき、バラモンを頂点とし先住民を最下層に置く、カースト制の原型がこの時期にできあがっていきました。そしてさらにバラモンたちは自分たちの権威を高めるため、祭式を複雑にし、その手順や呪文を覚えることでさらに優位性を保つようにしてきました。

 そのバラモンの祭式を集成したのがヴェーダであり、これが後のヒンドゥー教の成立や展開に多くの影響を与えることになりました。そこに書かれた概念や体系は「ヴェーダの宗教」と呼ばれ、これは「バラモン教」とほぼ同義です。


 ヴェーダは、聖仙(リシ)が神秘的霊感によって感得したものとされ、人格的な作者はなく、永遠の存在で完璧なものとされています。このヴェーダは、その後のインドの精神文化において、絶大な権威をもつものとされていきました。


 ヴェーダには4種類ありますが、最も古い時期に成立したのが「リグ・ヴェーダ」で、紀元前1000年ごろに集成されました。「リグ・ヴェーダ」の宗教は、自然の構成要素や現象などを神格に見立て、崇拝の対象としました。その意味で多神教ともいえ、後のヒンドゥー教にみられる「最高神崇拝」や偶像崇拝的な面はありませんでした。「リグ・ヴェーダ」に現れる自然現象を神格化した神の中で、最もよく出てくるのが雷電を神格化したインドラという神で、これはその後仏教にも取り入れられ、仏教を護る神々のひとりの帝釈天として日本人にもおなじみとなりました。


 アーリヤ人の家族は父系制であり、家長が大きな権限を持っていました。「リグ・ヴェーダ」にみられる神々は男神がほとんどで、妃神は夫神に従属していました。これは当時の女性の地位を反映していたと思われます。

 またヴェーダの中には、カースト的身分制の原型がみられます。すなわち、「リグ・ヴェーダ」に出てくるプルシャという原人神話の中で、プルシャが犠牲獣となって祭祀が行われたとき、プルシャの口から、4種類の人間(カースト)が生まれたとされています。


 またこの時代の農業を基盤とする社会にあって、アーリヤ人にとって最も重要な家畜は牛でした。この時代牛は運搬のほか栄養源でもあり、牛を食べるのを禁じたのは後世のことですが、この時代から牛は人々の生活に必要な、大事なものとして扱っていました。


 ヴェーダの宗教(バラモン教)は、後に成立するヒンドゥー教に取って代わられることになりますが、ヴェーダ聖典の権威はそのまま維持され、後のインド思想、ヒンドゥー哲学の中に息づいていくこととなりました。

 またこの頃のインドの思想は、はるか日本にまで影響を与えたことに注目しておくべきです。こういったことから、日本人とインド人はどこか相通じるものがあると思われるのです。




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