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3.ウパニシャッド哲学と自由思想家の活躍 今回はインド人の考え方やヒンドゥー思想にも影響を与えた、紀元前800年頃からのウパニシャッド、自由思想、ジャイナ教、仏教(次回)などの思想について記します。 神々への讃歌や祭式の手順を記したヴェーダに基づく宗教(バラモン教)は、紀元前1000年を過ぎた頃になるとバラモンの権威を保つため祭式そのものが複雑、大規模化していき、祭式にかけられる莫大な費用は、社会が負担しうる上限にまで達してしまいました。その中で紀元前800年ごろからヴェーダの本集であるサンヒターの付属書として、思想史上の新しい潮流であるウパニシャッド(奥義書)が編纂されていきました。 ウパニシャッドは当時のバラモン教で顕著だった祭式至上主義に対するアンチテーゼであり、このウパニシャッドで重要なのは、それ以前にはなかった「梵我一如(ぼんがいちにょ)」の思想です。梵我一如とは、ブラフマン(梵)と呼ばれる宇宙の根本原理と、アートマン(我)と呼ばれる個人の本体とが究極的には同一であるという考え方で、この原理を悟れば輪廻の連鎖を断ち切って解脱することができるというものです。元々サンヒターが作られた頃の牧畜を業としていたアーリヤ人の宗教観の中には、「来世」の概念はあっても、転生を延々と繰り返す「輪廻」は見られませんでし。しかしこの考えは農耕主体の社会になって、自然の循環とともに生きる農耕文化を担っていた先住民の文化を長い年月をかけて吸収した結果、得られててきたものです。 南インドのタミル語では「七回生まれ変わってもご恩は忘れません」という表現があります。これは輪廻転生して7回繰り返すまで、恩義を忘れないと言うことです。こうした「繰り返し」の発想はインド人一般のものの考え方や日常生活にも浸透しています。例えば南インドでは、子供の名前に祖父母の名前をつける風習があります。 このウパニシャッドの思想が体系化されインドの正統派哲学の基礎を形作った紀元前600年頃、当時ヴェーダ文化、バラモン教文化の東の辺境地であったガンジス河中流域で、インド思想に多大な影響を与えた自由思想家たちが登場してきました。当時アーリヤ人のガンジス河中流域への進出により、チベット系、ドラヴィダ系など非アーリヤ系先住民との混血も進み、それまでのアーリヤ至上主義的なバラモン教を絶対的権威と仰ぐ風潮に変化の兆しが現れていました。またこの頃は農業生産力が高まり、商工業も発達し、物質的に豊かになってきた頃でした。こうした社会の変化は、当時の伝統的・保守的な価値観に対して自由でとらわれない考え方を醸成していきました。ドイツの社会学者マックス・ウェーバーは、この頃のインドを人類史上まれに見る思想、表現の自由を享受した時代として評価したほどです。 こうした思想家の中に、ジャイナ教を興したニガンタ・ナータプッタと仏教を開いたゴータマ・ブッダがいました。多くの思想家の中でも、これら二人の教えが突出して成功を収めることになりました。 ニガンタ・ナータプッタ(紀元前444−372年)は、仏教を興したゴータマ・ブッダとほぼ同時代を生きた修行者でした。ニガンタ・ナータブッタは修行の完成者を意味する「ジナ」と呼ばれており、ジャイナは「ジナの教え」を意味しています。 ジャイナ教の特徴は、不殺生戒(ふせっしょうかい)と苦行の奨励です。ジャイナ教徒は、不殺生戒を守るために農業に就くことを避け、商業(特に金融業と小売業)に従事する傾向が強くあります。生活は菜食主義で、ヒンドゥー教の中で菜食主義をとる宗派は、ジャイナ教の影響を受けたものです。ジャイナ教は現在のインドでは0.4%ほどで、グジャラート州やラジャスタン州、そしてムンバイや南インドの一部で影響を保っています。彼らは正直なので信用があり、また比較的裕福であることから、インドの中で占める人口はわずかであるにもかかわらず、現在でもビジネスの重要なポストについている人が多いのが特徴です。 ジャイナ教徒の不殺生の概念は、直接的または間接的にヒンドゥー教徒の生命観や食習慣のなかに息づき、ガンディーらが指導した非暴力の理念へと昇華・結実して、インドの民衆をまとめて独立へと導いていく原動力ともなりました。 |
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